同人誌って何?

記事

「同人誌」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。漫画やアニメ、ゲームが好きな方なら一度は耳にしたことがあるかもしれませんが、実際にどのようなものなのか詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。今回は、同人誌の基本的な概念から歴史、現在の市場規模まで、幅広く解説していきます。

同人誌の基本的な定義

同人誌とは、同じ趣味や志を持つ人同士(同人)が集まり、創作活動(同人活動)から自費で制作・印刷した冊子「同人雑誌」の略称です3。より簡単に表現すると、自分で資金を出して制作・印刷された本のことを指します18

「同人」という言葉は、「同じ志や趣味を持つ人」を意味し、同人誌を作るために集まった団体を「同人サークル」と呼びます19。つまり同人誌は、「同じ志や趣味を持つ人たちの雑誌」という意味を持つのです19

同人誌は大きく2つのカテゴリーに分類されます。一つは「一次創作(オリジナル)」で、自分で考えた物語とキャラクターで漫画を描いたり、自分で書いた詩や俳句を集めて詩集・句集を作ったりするものです3。もう一つは「二次創作(パロディ)」で、既存のアニメやゲームのキャラクターを題材として、原作にはない交流を想像して漫画にしたものなどが該当します3

同人誌の歴史と発展

同人誌の歴史は意外にも古く、明治時代にまで遡ります。日本においては、1873年(明治6年)にアメリカから帰国した森有礼が翌年に創刊した『明六雑誌』が同人雑誌の先駆けとされています1

文芸同人誌としては、1885年(明治18年)に尾崎紅葉、山田美妙らが発行した『我楽多文庫』が最初とされ、この活動が後の文学界に大きな影響を与えたといわれています110。その後、志賀直哉が参加した『白樺』や、戦後の『近代文学』など、多くの重要な同人誌が刊行されました1

漫画の同人誌については、1960年代までは安価に印刷する手段がなかったため、原稿を綴じて回覧する「肉筆回覧誌」が主流でした1。1968年頃からオフセット印刷が普及し始め、現在のような同人誌の形態が確立されていきました1

同人誌文化の転機:コミックマーケットの誕生

同人誌文化にとって大きな転機となったのが、1975年に開催された「コミックマーケット(コミケ)」です2。このイベントは、同人誌を販売・交換する場として東京で開催され、数百人の参加者が集まりました2

コミックマーケットは年々規模が拡大し、現在では数十万人が参加する大規模なイベントとなっています2。東京ビッグサイトで3日間開催された場合、入場者数の合計は約55万人、参加する同人サークルの数は3.5万といわれています7

1980年代には、アニメやゲームの人気が高まり、それに伴って同人誌もさらに多様化しました2。アニメやゲームのキャラクターを題材にしたパロディ同人誌(二次創作)が登場し、人気を博すようになりました2

デジタル化時代の同人誌

2000年代に入ると、インターネットの普及により同人誌の制作・販売方法も大きく変化しました2。オンライン上で同人誌を販売・閲覧できるプラットフォームが登場し、より多くの人々が同人誌を制作・購入するようになりました2

現在では、「とらのあな」「メロンブックス」「BOOTH」「DLsiteがるまに」などの販売サイトで同人誌を購入することができます9。これらのサイトでは、紙の同人誌だけでなく、ダウンロード版も取り扱っており、購入してすぐに楽しめるという利点があります9

印刷技術も大きく進歩しました。アナログの手描きからコンピューターの発展によりデジタル化へと移行し、原稿がデータになることによって工程や時間がかなり減りました2。現在では、データ原稿を直接PS版にするCTPという技術が使われています2

同人誌市場の現状と規模

同人誌市場は近年、著しい成長を見せています。矢野経済研究所の調査データによると、同人誌の市場規模は約880億円(2022年度)とされています7。2018年から820億円ほどの市場規模があり伸びていましたが、2020年のコロナウイルスの拡大により一時的に743億円まで落ち込みました7

しかし、オンライン流通の影響もあり、2021年以降は回復傾向にあります7。特に2023年度には、「オタク」市場主要16分野の中で、「同人誌」市場が前年度比37.9%増と最も高い成長率を記録しました1316

この成長の背景には、即売会の参加者数(出展者や一般来場者)がコロナ禍以降回復が進んでいることや、データ販売が同人誌印刷などの工数が掛からないことにより安価に制作しやすくなったこと、翻訳版(海外売上)の販売も好調であることなどがあります1316

同人誌の魅力と特徴

同人誌の最大の魅力は、「好きなことを自由に書くことができる」ことです5。商業誌は出版社が中身をチェックして整えられた「商品」ですが、同人誌は本来、趣味性が高く、いわゆる「商品」として儲けることを前提にしていません5

その分、人の思いが強く、自由に表現されています5。個人でも自由な創作ができることや、原作にはない面白さを出せることが、同人誌市場が盛り上がっている理由の一つとなっています7

また、Web上で売買・閲覧でき、身近な存在になったことも大きな要因です7。SNSなどの発達により、自分と同じ趣味や興味をもつ仲間を見つけやすくなったことで、作品を作るモチベーションにつながっています7

同人誌を作る際の注意点

同人誌を作る際には、いくつかの重要な注意点があります。まず、公序良俗を守ることが大切です7。自由に同人誌を作っていいからといって、どんな内容でも許されるわけではありません7

特に重要なのが著作権の問題です。二次創作物は著作権的にはグレーゾーンであることを理解しておく必要があります3。原作の著作権者の許諾を得ることなく、マンガ、アニメ、ゲームなどのキャラクターを題材とした二次創作物を不特定多数へ販売することは、原則として著作権侵害になります3

現状では、二次創作活動はファン活動の延長線上にある「非営利目的」のものとしてとらえ、原作との相乗効果を期待することもあり、多くの場合黙認されているのが現状です3。しかし、あくまで著作権者が黙認している「グレーゾーン」としての位置づけであることを十分認識し、自身の発行物に責任を持つことが重要です3

同人誌の国際化

同人誌文化は日本国内にとどまらず、海外にも広がっています2。日本のコミックマーケットには、海外からの参加者やサークルも増加しており、国際的なイベントとしての側面も強まっています2。また、海外でも同様の同人誌即売会が開催され、日本の同人誌文化が世界中で受け入れられるようになっています2

今後10年間(2024年から2034年)の成長率は、年平均3%から5%程度と予測されており、デジタル化の進展や国際的な需要の増加などが成長要因として挙げられています8

まとめ

同人誌は、明治時代から続く長い歴史を持つ文化でありながら、現代においても進化し続けている創作活動の形です。自分の「好き」を形にして表現できる自由さと、同じ趣味を持つ人々とのつながりが、多くの人々を魅力し続けています。

デジタル化やインターネットの普及により、同人誌の制作から販売まで、より身近で手軽なものになりました。市場規模も拡大を続けており、今後も新しい表現方法や技術の進化とともに発展していくことが期待されます。

同人誌文化は、アマチュアの作家たちが自分の作品を自由に発表し、共有するための場を提供し続けてきた歴史でもあります。この文化がますます多様化し、世界中に広がっていく中で、私たちは新たな創作の可能性と表現の自由を見つけることができるでしょう。

引用:

  1. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%8C%E4%BA%BA%E8%AA%8C
  2. https://www.ko-sin.co.jp/syindex/yougo_son8
  3. https://www.d-mate.net/blog/column01/
  4. https://www.net-seihon.co.jp/media/doujinshi
  5. https://www.lowcost-print.com/column/%E5%90%8C%E4%BA%BA%E8%AA%8C%E3%81%AE%E5%A7%8B%E3%81%BE%E3%82%8A%E3%81%AF%E6%98%8E%E6%B2%BB%E6%99%82%E4%BB%A3%EF%BC%81%E6%95%99%E7%A7%91%E6%9B%B8%E3%81%AB%E3%81%AE%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%82%8B%E3%81%82/
  6. https://jp.ext.hp.com/techdevice/printing/40indg_sc04/
  7. https://publish.n-pri.jp/contents/00042/
  8. https://www.genspark.ai/spark/2024%E5%B9%B4%E3%81%8B%E3%82%892034%E5%B9%B4-%E5%90%8C%E4%BA%BA%E8%AA%8C%E5%B8%82%E5%A0%B4%E3%81%AE10%E5%B9%B4%E9%96%93%E6%88%90%E9%95%B7%E7%8E%87%E4%BA%88%E6%B8%AC%E5%88%86%E6%9E%90/12c17364-7f3e-404a-977d-90c41cb80064
  9. https://triokini.com/triolab/entries/65
  10. https://printmall.jp/blog/archives/20201214/1735/
  11. https://printmall.jp/blog/archives/20230609/7366/
  12. https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC10E1Y0Q5A410C2000000/
  13. https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3725
  14. https://publish.n-pri.jp/contents/00007/
  15. https://www.clipstudio.net/oekaki/archives/150123
  16. http://www.pjl.co.jp/view/2025/02/18620.html
  17. https://www.weblio.jp/content/%E5%90%8C%E4%BA%BA%E8%AA%8C
  18. https://www.clipstudio.net/oekaki/archives/148839
  19. https://www.tcpc.co.jp/columns/index105
  20. https://raksul.com/magazine/column/difference-doujinshi-manga/
  21. https://www.graphic.jp/comic/dojinshi/column
  22. https://www.orangekoubou.com/making/making.php
  23. https://publish.n-pri.jp/contents/00021/
  24. https://www.creativevillage.ne.jp/category/news/publication-news/160540/
  25. https://ec.toranoana.jp/tora_r/ec/cot/pages/all/portal/standard/AnnualRanking/2023/ALL/
  26. https://realsound.jp/book/2025/02/post-1922999.html
  27. https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoki/h27_06/pdf/shiryo_12.pdf
  28. https://bookwalker.jp/ex/feature/year_ranking/2022-h/genre-bwi.html

 

タイトルとURLをコピーしました